機動戦士ガンダム ライバルの重要性
今回は、機動戦士ガンダムを題材に「ライバル・敵役」について考えていきます。
面白い作品は、主人公のキャラクターだけではなく、それ以上にライバル・敵役のキャラクターが重要です。
ドラゴンボールも悟空よりピッコロ、ベジータ、フリーザの方がキャラクターが立っている。
ガンダムでは、初代の敵役であるシャア・アズナブルが非常によくできたキャラクターであったため、後々シャアのようなキャラクターが再生産されていくことになる。
ガンダム第1話を観てない人はここで通して観てみよう。
赤いロボットに乗った、超優秀なパイロットである。
後のガンダムシリーズにも同様の強い敵キャラが定番となる。
この40年前に制作された初代ガンダムの前日譚を描いたのが「ガンダム THE ORIGIN」
最近作られたので、CGとデジタルで作られているが、初代ガンダム第1話の直前の話である。
いわゆるエースパイロットで、目立たせるために赤い機体を使っている。
戦場で目立つ赤色はナンセンスと思いきや、これには実際のモデルがいる。
第一次世界大戦で活躍したドイツのエースパイロット「レッドバロン」。
本名「マンフレート・フォン・リヒトホーフェン」
敵機撃墜数はなんと80機。
中古バイクのチェーン店の「レッドバロン」の名称はここから取られている。
数回映画化されている。2011年の映画「レッドバロン」の予告を観てみよう。
このように優れたキャラクターには元ネタがある。
本当に機体を赤く塗ったエースパイロットがいたからリアリティが出てくる。
主人公はどうしても優等生的になりやすいが、敵役・ライバルを特徴のあるキャラクターにすることで作品に広がりができる。
機動戦士ガンダムでは、超エースのシャアも7年後に作られた「Zガンダム」では中年になっている。
(8:48~16:04 まで見てください)
初代ガンダム(第二話でシャアが潜入する)とZガンダムで、同じ潜入シーンが作られている。
初代では超優秀なエースだったシャアが、7年後に同じことをやった場合には肩を打たれてしまう。
ここに富野監督のキャラクター造形の素晴らしさがある。
初代ガンダムを作ったときには、富野監督もシャアと同様に超エースであったし自信もあった。
しかし、初代ガンダムを作ったあとに何作も他のアニメを作っているにも関わらず、7年後にスポンサーから「そろそろガンダムの続編をやってくれませんか」と言われてしまう。
ガンダムの後の作品は、初代ガンダムを超えられなかったということになる。
ここに中年の悲哀がある。
これは、アニメ監督だけでなくあらゆるアーティストにあてはまる。
歌手でも昔のヒット曲ばかり歌わされてしまう。
ヒット後にアルバムを何枚出していても、そこでの音楽的進化には注目されない。
だからこそ、7年後の続編でシャアは初代ガンダムのイケイケではなく、弾が当たってしまうキャラクターになっている。
これは富野監督自身を投影していると言える。
自分の好きな作品の、敵役・ライバルを分析してみてほしい。
面白い作品は、必ず敵キャラに魅力があるはずだ。
なぜその敵が強いのか、なぜ主人公はその敵を倒さなくてはいけないのか、どうやれば勝つことができるのか、敵キャラが魅力的であればあるほど物語にリアリティが生まれるのである。
以上。
模倣と影響
今回は映像作品における模倣と影響ということを考えていく。
「戦車」をテーマとして扱う。
戦車とは、元々は馬で引くものだった。
タロットカードの戦車(チャリオット)である。
意味は、「前進する、成功、行動範囲が広がる、克服する」といったこと。
前に進むという運動を象徴している。
映画などの映像作品において、古典的な作品は必ず模倣される。
後の作品に影響を与えると言ってもいい。
まずは、映画史においても超重要な古典「ベン・ハー」の戦車競走のシーンを観てみよう。
古い作品なので少しテンポが悪く感じられるかもしれないが、全画面にして観てほしい。
いかにこの作品が後に影響を与えているかがわかる。
タロットカードのチャリオットと同じ2頭立ての戦車を使っている。
「キングダム」を知っている人は似た形の戦車を知っていると思う。
なんと製作は1959年。
これが映画で一番有名な戦車のシーンである。
これが2000年の『グラディエーター』になると戦車のシーンはこうなる。
主人公はローマの将軍であったが剣闘士に身を落としている。
剣闘士の試合だと思っていたら、いきなり戦車が登場して焦るというシーン。
たまに映る皇帝はコンモドゥス。実在の皇帝である。
この映画の序盤で死ぬのはマルクス=アウレリウス=アントニヌス。五賢帝最後の皇帝である。世界史を選択した人は知っていると思う。
このシーンはモロに『ベン・ハー』の影響を受けていることがわかると思う。
2000年ということでCGなどを使えるようになっているのでより迫力のある映像になっている。
この『グラディエーター』の影響を受けて作られたのがこのペプシのCM
ブリトニー・スピアーズ、ビヨンセ、ピンクといったスターを起用して話題になった。
さて、戦車は馬が引くものから、第一次世界大戦において今みんなが想像する戦車の形になった。
こちらは2014年の映画『フューリー』
敵の戦車ティガーは日本ではタイガー1と呼ばれたドイツの化物級の戦車である。
この頃の戦車になると、キャタピラなので後退や方向転換が容易となる。
何が決定的かというと、大砲の射程距離、装甲の厚さなどに変わってくる。
ティーガーは1台しかいないが、アメリカ軍のM4シャーマンとの圧倒的な差があるため、ボコボコにされるのである。
そして、2015年の『マッドマックス 怒りのデスロード』では、構図自体が『ベン・ハー』と酷似している。
左が『ベン・ハー』右が『マッドマックス』
(リンクをクリックして画像を開いてください)
Ben-Hur / William Wyler
— K.E.A (@Stargazer_KEA) 2020年8月7日
Mad Max: Fury Road / George Miller pic.twitter.com/gczA6c51UH
最後に、近未来を描いた『攻殻機動隊スタンドアローンコンプレックス』
戦車はAIを搭載して自分で考えられるようになっている。
戦車の天敵はヘリコプター。
ティーガーの時代には無かったが、今の戦車は空中からヘリに狙われやすいという欠点がある。
このように映像作品は過去のものからの影響をうけている。
単なる真似・パクリではなく、後の作品に影響を与えられるのがいい作品だということを理解してほしい。
(もっと学びたい人は取り上げた作品を観てみよう。『グラディエーター』『フューリー』『マッドマックス 怒りのデスロード』が観やすい。)
以上。
スーパー戦隊シリーズ 後編
(前編を見ていない人はそちらから観ること)
自分なりの5人組・5種類のもの(ex.お菓子の詰め合わせ)を考えてみてください。
今回は、スーパー戦隊シリーズの5人のフォーマットのよくある失敗を考察してみよう。
私は、漫画家やアニメーター、ゲーム作家を目指す学生を教えてきた。
しかし、5種類をうまく作れる学生は少なかった。
コント番組の1コーナーである。
スーパー戦隊シリーズの理解とともに、ダウンタウンがなぜお笑い芸人として凄いかということも理解できる。
今の大学生がダウンタウンをテレビで観ると、司会者として捉えてしまう。
なぜか若手のお笑い芸人に大物扱いされているが凄さがわかりにくい。
しかし、お笑い芸人として毎週コントを作っていたのである。
クリエイター志望の学生を指導するときに、ダウンタウン浜田とほぼ同じことを言うことになる。
絵が上手い学生でも、自分の好きなキャラが2種類くらいしかない。
このコントでは赤と黄色しか描くことができないわけだ。
前編で言ったように、スーパー戦隊シリーズの凄さは「子供からお年寄り」まで違いが把握できるところである。
「実は性格がキザ」などは伝わらないのである。
5種類の味のお菓子を発売した場合、食べてみてようやく特色がわかるようでは誰も買ってくれない。
(2話目)
5種類作れない場合、次によくあるのが他の作品のキャラを混ぜてしまうことである。
ドラえもん、のび太、ジャイアンにドラゴンボールの悟空とベジータを足してしまうパターンである。
こうすると世界観がちぐはぐになってしまう。
バイオリン、チェロにエレキギター、エレキベースを混ぜてしまうようなことだ。
また、オプション(付属品)も重要で、キャラと同じ色・性格にするとより色分けが際立つ。
(3話目 )
ここでようやく5色に分けることができた。
しかしここでの問題は「自分が5分の1だということを分かってない」ということだ。
各々が個性を出そうとしてしまっている。
赤のノースリーブも必然性の無い個性である。
このあたりで学生を相手にする教員(ダウンタウン浜田)も、いくら言ってもわからないので、「一回好きなのやってこい」と言うことになる。
(4話目 )
フォーマット(形式)が無いとこうなるといういい例である。
全て自由にしてしまうとグループとして成立しない。
(5話目 )
ようやく5色に分けることができた。
しかしフォーマット(形式)を崩して形で個性を出そうとしている。
これはやりすぎということになる。
ポテトチップスを5種類つくるときに、パッケージの大きさや形を変えてしまうようなものだ。
ヤマザキパンのランチパックは何種類もあるが、大きさやパッケージの形状は同じである。
形も変えてしまうとその違いに目が移って区別しにくくなるのだ。
自分が考えた5人組・5種類のものはうまく作れていただろうか。
これはサブカルチャー作品のみならず、社会に出た後の仕事にも通じる話である。
そして、売れっ子のお笑い芸人の着眼点がいかに鋭いかが理解できたと思う。
スーパー戦隊シリーズの本質をわかった上で、コントとしてうまくズラしている。
どのジャンルでもトップに立つ人というのは、このようなことを直感的に理解し、自分の作品として表現できる人なのだ。
(感想をメールで送ってください。それをもって出席とします)
以上。
スーパー戦隊シリーズ 前編
日曜朝に放送されている「スーパー戦隊シリーズ」というものがある。
元祖は1975年の『秘密戦隊ゴレンジャー』である。
この、5人を色分けしたフォーマットが素晴らしかったため現在でも続いている。
映像は古く感じるが、メンバーの構成は今でもすぐに分かる。
赤→リーダー
青→サブリーダー、(エース)
黃→力持ち、カレー好き
桃→紅一点
緑→ルーキー(この緑の性格付けだけあいまい、後の作品でもふんわりすることになる)
「5人」かつ「色分け」ということが、小学生までの子供にも区別がつきやすいという大きなメリットがある。
後に、女2人の『バイオマン』が誕生する
また、ブラック(一匹狼、サブリーダーではなく赤と対立する)やシルバー(一騎当千、一人で五人と同じくらいの力を持つ)といったバリエーションが生まれる。
このフォーマットは海外にも輸出され『パワーレンジャー』として人気を得ることになる。
特筆すべきは、変身前の俳優が演じているシーンと変身後の特撮シーンを明確に区別することができるため、現地の俳優を使い別撮りを行い、特撮シーンのみ日本版を流用していることである。
日本版『侍戦隊シンケンジャー』(レッドは松坂桃李)
海外版『パワーレンジャー SAMURAI』
30分番組の半分の実写パートだけを撮影すればよい。
5人のフォーマットが人種の多様性を表現することにも寄与している。
さらに、日本版『侍戦隊シンケンジャー』では、赤=リーダーというフォーマットを利用して、本当のリーダーとはなんなのか、赤であれば自動的にリーダーなのかというテーマを描いている。
それはこのフォーマットが優れているからこその題材である。
フランスではファンが同人作品を作っている。
主題歌は本物にお願いしている。
これはスーパー戦隊シリーズのフォーマットを非常によく理解している。
赤→フロマージュ(チーズ)
青→ワイン
黃→バゲット(フランスパン)
桃→アラモード(流行という意味、ファッション)
白→これだけよくわからない
さらに女児向けアニメにも影響を与えることになる。
『プリキュア』シリーズ
当初は、黒と白の対照的な二人組、いわゆるバディもの(ダーティペアなどの影響)であったが、『YES!プリキュア5』から、5人組になった。
ここからは、アニメ・特撮作品以外にも考察を広げてみよう。
このスーパー戦隊シリーズのフォーマットは、5人という数、色分けということが、小学生までの子供にも理解しやすいということがメリットであった。
子供にわかりやすいということは、高齢者(60歳以上をイメージ)にもわかりやすいということになる。
日本において国民的アイドルとなったのは、昭和のドリフターズ、平成のSMAPである。
ここで言う国民的アイドルとは、「子供からおじいちゃんおばあちゃんまで知っている」という意味である。
ドリフターズは『8時だョ!全員集合』という番組で、平均視聴率27.3%、最高視聴率50.5%を叩き出した。(5人のバランスが重要)
いかりや長介、加藤茶、志村けん、高木ブー、仲本工事、の5人は日本人なら誰でも知っていた。
SMAPはジャニーズの中でも異色である。
ジャニーズの中でメインではなかったため、歌だけでなくバラエティ番組もこなすことになる。
そのことがドリフターズと同じように、老若男女に知られることになる。
バラエティ番組の中で『音レンジャー』というモロにスーパー戦隊シリーズを模したコントを行っていた。
最近では、ももいろクローバーがわかりやすい。
有名になり始めた頃は6人・色分けグループだった。
そこで青が脱退。5人の「ももいろクローバーZ」となる。
この時代にブレイクする。
5人バージョン。5人編成が一人ひとりを区別しやすい。
現在は緑が抜けて4人組になっている。大人になったという面もあるが、4人組になると5人のときのような色による区別が必須ではなくなる。
次回後編に向けて、自分で5人組・5種類のものを考えてみよう。
・バンド→5人編成が多い。楽器がそれぞれ異なるので考えやすい。誰をリーダーにするかで、同じ構成でも変わってくる。
・バスケ→1チーム5人のものは考えやすい。例:スラムダンク、黒子のバスケ
・自転車競技→弱虫ペダルのように、明確に役割分担がある競技はやりやすい。
・お菓子→ポテトチップスを5種類同時発売するキャンペーンを任されたと考えてみよう。洋菓子・和菓子の場合、一つの箱に5種類詰め合わせると考えてみる。
などなど、漫画・アニメ作品だけでなく、将来自分が仕事で関わりそうな分野で考えてみることが重要である。
大事なのは「老若男女が一発で把握できること」。
説明しなくては理解できないものは、企画として失敗である。
(以上は課題ではありません。
次回後編は、失敗のよくあるパターンを検証するので、考えてみてください。)
AR(拡張現実) 電脳コイル
1.AR(拡張現実)とは
Augmented Reality 現実空間に主にコンピュータを使った映像を重ねることにより、現実を拡張することを言う。
拡張するためにはスクリーンが必要で、当初はメガネが想定されることが多かった。
現代ではスマートフォンを持っていることから、スマホのスクリーンを媒介したものが多い。
一番わかりやすいのはポケモンGO
そしてドラクエウォーク
しかし、両者ともに実際のゲーム中にARモードを活用できていない。
CMのように画面内の物体が何かを把握できていない。
これが現時点でのARのわかりやすい例であるが、アニメ作品の中にこのAR(拡張現実)が日常になっている未来を描いた作品がある。
それが2007年の作品「電脳コイル」である。
今回は、「電脳コイル」第一話を鑑賞して、13年前の作品がARをどう予測したかを学んでみよう。
以下のリンクから第一話を無料で観ることができる。
(これから30分観てみよう)
電脳コイル 第1話| バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
(以下は鑑賞後に読んでください)
どうだったであろうか?
13年前にはスマホも普及していない。
拡張現実が日常になっていることがうまく表現できていると思う反面、これは違うのでは?という点もあった。
一番違和感があったのは、電脳メガネという形である。
未来予測をするときにどうしても今あるものの延長で考えてしまう。
グーグル・グラスというものが開発されたが、メガネをかけるという不便さで普及しなかった。
そして、2020年の現実では皆がスマートフォンという小型のスクリーンを持ち歩いている。
メガネ型になるのでは?という予測はしやすいが、スマートフォンという型は想像しにくいのである。
一方、この作品が上手いのはどんな未来になっても人間自体が変わるわけではないことを表現している。
・メガネに連動して電話をかけるときに手を電話の形にする。ジェスチャーに近い。
・小学生は相変わらず探偵ごっこをしたがる。
・(たとえ電脳ペットであっても)人間はペットに愛情を感じる。
・古いものをみると(たとえそれがコンピュータによるものであっても)そこにオカルトを感じてしまう。暗闇にお化けがいると感じる。
など。
第一話の最後に出てくるサッチーが、第二話で神社の敷地に入れないという描写がある。
これは、拡張現実が当たり前の世界になっても、管轄が違うところには手をだせないというお役所仕事が続いていることをうまく表現している。
技術が新しくなっても人間のやっていることは変わらないのだ。
【ここから考えてほしいこと】(注:課題ではありません。各自、自分の考えを深めていってください)
・主にコンピュータ、IT技術が発達することによって、我々の生活はどう変わっていくのか。逆に何が変わらないのか。
・コロナによって世界の変化は加速している。電脳コイルのような世界になったとき、学校や会社はどうなっているのだろうか。
【さらに発展させたい場合】
・参考記事 家電機器の観点からARを紹介した記事
・2話以降を鑑賞してみよう。
・u-next
・その他にもあるようです。「電脳コイル」で検索してください。
・全話観た人は、アニメ批評番組を観てみよう。(こちらは全話観たことを前提とした番組です。全話観た人は冬休みにでも見てください。)
以上。